子どもが多い街は、豊かな街なのか — 相関係数1つでは答えが出ない
子育て世帯が集まる街は、所得も高いのでしょうか。それとも所得の高い街ほど、子どもは少ないのでしょうか。
当サイトには人口推移マップと所得マップがあります。両方のデータが揃う1,740市区町村で、15歳未満の割合と1人あたり所得の関係を計算してみます。
全国で計算すると、弱い正の相関
相関係数は r = +0.252 でした。強くはありませんが正の値です。「子どもの割合が高い市区町村ほど、所得もやや高い傾向がある」と読めます。
中央値は、15歳未満の割合が11.2%、1人あたり所得が297.6万円です。
ここで話を終えると、答えは「子どもが多い街は、やや豊かな傾向がある」になります。しかし人口規模で区切ると、様子が変わります。
人口20万人以上だけ、符号が反転する
| 人口規模 | 市区町村数 | 相関係数 | 15歳未満 (中央値) | 1人あたり所得 (中央値) |
|---|---|---|---|---|
| 1万人未満 | 564 | +0.201 | 9.8% | 279.6万円 |
| 1万〜5万人 | 672 | +0.364 | 11.1% | 289.8万円 |
| 5万〜20万人 | 374 | +0.196 | 12.2% | 322.8万円 |
| 20万人以上 | 130 | -0.126 | 11.9% | 363.7万円 |
人口20万人以上の130市区町村だけで計算すると r = -0.126。符号が逆になります。この層では「子どもが多いほど所得が低い」という、全国とは反対の関係が現れます。
中身を見ます。
| 市区町村 | 都道府県 | 15歳未満 | 1人あたり所得 | 2025年人口 |
|---|---|---|---|---|
| 流山市 | 千葉県 | 15.7% | 415.4万円 | 215,130 |
| 那覇市 | 沖縄県 | 14.6% | 337.8万円 | 311,073 |
| つくば市 | 茨城県 | 14.4% | 427.1万円 | 268,991 |
| 岡崎市 | 愛知県 | 14.1% | 380.4万円 | 377,608 |
| 豊中市 | 大阪府 | 13.7% | 444.7万円 | 404,479 |
| 茨木市 | 大阪府 | 13.6% | 394.2万円 | 287,098 |
子どもの割合が高い側は、所得も高い自治体が並びます。流山市は15.7%で所得415.4万円。全国中央値の297.6万円を大きく上回ります。
| 市区町村 | 都道府県 | 15歳未満 | 1人あたり所得 | 2025年人口 |
|---|---|---|---|---|
| 新宿区 | 東京都 | 8.4% | 620.5万円 | 361,634 |
| 中野区 | 東京都 | 8.5% | 466.5万円 | 355,333 |
| 豊島区 | 東京都 | 8.8% | 495.9万円 | 306,106 |
| 台東区 | 東京都 | 8.8% | 482.2万円 | 228,390 |
| 函館市 | 北海道 | 9.4% | 303.7万円 | 230,498 |
| 渋谷区 | 東京都 | 9.4% | 1073.7万円 | 239,119 |
低い側は、6件のうち5件が東京23区です。所得は466.5万円から1073.7万円と、いずれも全国中央値の1.5倍以上あります。相関の符号を反転させていたのは、この層でした。
東京23区だけを並べると
23区は所得の水準が全国とかけ離れているため、単独で見ます。15歳未満の割合が低い順です。
| 順位 | 区 | 15歳未満 | 1人あたり所得 |
|---|---|---|---|
| 1 | 新宿区 | 8.4% | 620.5万円 |
| 2 | 中野区 | 8.5% | 466.5万円 |
| 3 | 豊島区 | 8.8% | 495.9万円 |
| 4 | 台東区 | 8.8% | 482.2万円 |
| 5 | 渋谷区 | 9.4% | 1073.7万円 |
| 6 | 杉並区 | 10.0% | 515.8万円 |
| 7 | 板橋区 | 10.3% | 397.7万円 |
| 8 | 北区 | 10.3% | 412.5万円 |
| 9 | 墨田区 | 10.3% | 423.5万円 |
| 10 | 大田区 | 10.3% | 464.4万円 |
| 11 | 足立区 | 10.9% | 375.1万円 |
| 12 | 目黒区 | 11.0% | 716.7万円 |
| 13 | 品川区 | 11.1% | 557.0万円 |
| 14 | 荒川区 | 11.3% | 414.6万円 |
| 15 | 葛飾区 | 11.4% | 375.4万円 |
| 16 | 練馬区 | 11.4% | 447.4万円 |
| 17 | 世田谷区 | 11.6% | 619.8万円 |
| 18 | 文京区 | 11.7% | 707.2万円 |
| 19 | 江戸川区 | 12.4% | 398.2万円 |
| 20 | 江東区 | 12.7% | 498.6万円 |
| 21 | 港区 | 13.3% | 1396.8万円 |
| 22 | 千代田区 | 13.5% | 1121.3万円 |
| 23 | 中央区 | 13.6% | 780.8万円 |
最も低い新宿区が8.4%、所得は620.5万円。所得が最も高い港区(1396.8万円)は13.3%です。23区内でも、所得の高さと子どもの多さは同じ方向を向いていません。
都道府県の中央値で見ると、さらに弱くなる
市区町村ではなく、都道府県ごとの中央値どうしで相関を取ると r = +0.157 です。全国の市区町村で計算した+0.252よりも弱くなります。
| 都道府県 | 15歳未満 (中央値) | 1人あたり所得 (中央値) | 市区町村数 |
|---|---|---|---|
| 沖縄県 | 16.7% | 277.1万円 | 41 |
| 愛知県 | 13.4% | 354.5万円 | 54 |
| 滋賀県 | 13.2% | 316.4万円 | 19 |
| 佐賀県 | 13.2% | 285.1万円 | 20 |
| 福岡県 | 13.1% | 289.1万円 | 60 |
| … | |||
| 北海道 | 9.9% | 309.5万円 | 179 |
| 奈良県 | 9.7% | 307.0万円 | 39 |
| 青森県 | 9.6% | 263.1万円 | 40 |
| 高知県 | 9.4% | 262.9万円 | 34 |
| 秋田県 | 8.6% | 262.1万円 | 25 |
子どもの割合が最も高い沖縄県は16.7%ですが、所得の中央値は277.1万円です。最も低い秋田県は8.6%で、所得も262.1万円。両端が同じ方向に動いていません。
4つに分けてみる
相関係数という1つの数字に潰さず、中央値(15歳未満11.2%/所得297.6万円)で4つに分けます。それぞれの人口増減率(2020→2025)の中央値を並べました。
| 組み合わせ | 市区町村数 | 人口増減率 (中央値・2020→2025) |
|---|---|---|
| 子どもが多く、所得も高い | 598 | -2.4% |
| 子どもが多く、所得は低い | 272 | -6.3% |
| 子どもが少なく、所得は高い | 270 | -7.7% |
| 子どもが少なく、所得も低い | 600 | -10.4% |
4つとも人口は減っていますが、減り方の差は8.1ポイントあります。子どもが多く所得も高い群が最も緩やかで、子どもが少なく所得も低い群が最も急です。相関係数では見えなかった順序が、こう分けると出てきます。
この記事の結論は「答えが1つに決まらない」です。 同じデータから「子どもが多い街は豊か(r=+0.252)」とも 「子どもが多い街は所得が低い(r=-0.126)」とも言えてしまいます。 どちらも計算は正しく、どちらか一方だけを示せば読み手を誤らせます。
この記事のデータについて
- 3つのデータで年がずれています。人口と増減率は2025年国勢調査、15歳未満の割合は2020年国勢調査、所得は2023年度課税(2022年中の所得)です。
- 所得は納税義務者1人あたりの課税対象所得で、住民1人あたりではありません。納税義務のない人は分母に入らないため、実際の世帯の豊かさとは別の指標です。
- 政令指定都市の区と東京都特別区部の集計値は母集団から除いています。市と区を両方数えると人口が二重に計上されるためです(東京23区は個別の区として含めています)。
- 相関係数は関係の強さを示すだけで、原因と結果を示しません。この記事でも「だから何をすべきか」は書いていません。