「全国1位」の正体 — 絶対数ランキングは、たいてい人口ランキングでしかない
2025年5〜9月に熱中症で救急搬送された人は、全国で100,510人でした。都道府県別で最も多かったのは東京都の9,315人です。
この「全国1位」に、どれだけの意味があるでしょうか。
東京都の人口は14,246,219人で、これも全国1位です。人口が最も多い都道府県で、搬送者数も最も多い。当たり前すぎて、何も分かりません。
人口10万人あたりに直すと、景色が変わります。
| 指標 | 東京都 | 鳥取県 |
|---|---|---|
| 搬送者数 | 9,315人(全国1位) | 602人(全国47位) |
| 人口10万人あたり | 65.4人(44位) | 114.9人(7位) |
1位だった東京都は44位に落ち、最下位だった鳥取県は7位に上がります。順位差にして東京都が43、鳥取県が40。同じデータを見ているのに、結論がほぼ逆になります。
47都道府県・人口10万人あたりの搬送者数
当サイトの熱中症マップは搬送者数(絶対数)で順位を出しているため、人口あたりの一覧はサイト内のどこにもありません。ここに掲載します。
| 順位 | 都道府県 | 10万人あたり | 搬送者数 | 絶対数順位 | 高齢化率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 大分県 | 128.3 | 1,382 | 27 | 33.1% |
| 2 | 岡山県 | 124.0 | 2,243 | 13 | 30.2% |
| 3 | 奈良県 | 121.5 | 1,542 | 22 | 31.6% |
| 4 | 佐賀県 | 119.8 | 936 | 37 | 30.6% |
| 5 | 鹿児島県 | 119.2 | 1,803 | 17 | 32.4% |
| 6 | 愛媛県 | 115.8 | 1,459 | 26 | 33.0% |
| 7 | 鳥取県 | 114.9 | 602 | 47 | 32.2% |
| 8 | 和歌山県 | 114.4 | 989 | 34 | 33.2% |
| 9 | 徳島県 | 111.9 | 756 | 40 | 34.0% |
| 10 | 香川県 | 110.7 | 1,005 | 32 | 31.7% |
| 11 | 高知県 | 109.9 | 707 | 42 | 35.3% |
| 12 | 島根県 | 106.0 | 667 | 45 | 34.0% |
| 13 | 群馬県 | 104.8 | 1,958 | 15 | 30.0% |
| 14 | 沖縄県 | 103.0 | 1,513 | 25 | 22.6% |
| 15 | 宮崎県 | 102.7 | 1,046 | 31 | 32.5% |
| 16 | 熊本県 | 102.0 | 1,712 | 19 | 31.1% |
| 17 | 岐阜県 | 99.9 | 1,889 | 16 | 30.3% |
| 18 | 福島県 | 99.2 | 1,698 | 20 | 31.6% |
| 19 | 三重県 | 97.2 | 1,648 | 21 | 29.7% |
| 20 | 長崎県 | 96.7 | 1,191 | 29 | 32.9% |
| 21 | 京都府 | 91.9 | 2,301 | 11 | 29.3% |
| 22 | 石川県 | 90.4 | 984 | 35 | 29.4% |
| 23 | 愛知県 | 89.3 | 6,653 | 3 | 25.3% |
| 24 | 福井県 | 88.7 | 647 | 46 | 30.6% |
| 25 | 岩手県 | 88.7 | 998 | 33 | 33.4% |
| 26 | 山梨県 | 88.6 | 691 | 44 | 30.7% |
| 27 | 茨城県 | 87.5 | 2,442 | 10 | 29.4% |
| 28 | 兵庫県 | 86.6 | 4,610 | 6 | 29.2% |
| 29 | 山形県 | 85.9 | 853 | 39 | 33.7% |
| 30 | 広島県 | 85.5 | 2,295 | 12 | 29.2% |
| 31 | 埼玉県 | 84.3 | 6,141 | 4 | 26.9% |
| 32 | 大阪府 | 82.2 | 7,202 | 2 | 27.6% |
| 33 | 青森県 | 81.2 | 926 | 38 | 33.7% |
| 34 | 栃木県 | 81.2 | 1,514 | 23 | 29.0% |
| 35 | 滋賀県 | 81.0 | 1,128 | 30 | 26.2% |
| 36 | 宮城県 | 80.8 | 1,799 | 18 | 27.9% |
| 37 | 秋田県 | 79.2 | 699 | 43 | 37.3% |
| 38 | 山口県 | 75.5 | 954 | 36 | 34.5% |
| 39 | 福岡県 | 74.9 | 3,808 | 8 | 27.7% |
| 40 | 新潟県 | 73.2 | 1,514 | 24 | 32.7% |
| 41 | 富山県 | 72.6 | 716 | 41 | 32.5% |
| 42 | 長野県 | 69.1 | 1,351 | 28 | 31.9% |
| 43 | 千葉県 | 68.6 | 4,292 | 7 | 27.4% |
| 44 | 東京都 | 65.4 | 9,315 | 1 | 22.7% |
| 45 | 静岡県 | 64.3 | 2,232 | 14 | 30.0% |
| 46 | 北海道 | 54.7 | 2,727 | 9 | 31.9% |
| 47 | 神奈川県 | 54.1 | 4,972 | 5 | 25.5% |
全国平均は10万人あたり81.7人。最多の大分県(128.3人)と最少の神奈川県(54.1人)で2.37倍の差があります。
絶対数では5位だった神奈川県が47位、9位だった北海道が46位。逆に、人数が少ないために目立たなかった中国・四国・九州の県が上位に並びます。
では、何がこの差を生んでいるのか
最初に思いつくのは高齢化です。高齢者は熱中症になりやすいと言われますし、上位には高齢化率の高い県が目立ちます。
ただし、当サイトのデータで計算すると高齢化率と10万人あたり搬送者数の相関係数は r = +0.314にとどまります。弱い〜中程度の正の相関で、これだけでは説明しきれません。
実際、はっきりした反例が2つあります。
高齢化率が全国で最も高い秋田県は37位、最も低い沖縄県は14位。順序が逆です。高齢化だけで説明しようとすると、この2県で破綻します。
気候の影響は当然大きいと考えられますが、単純に「暑い地域ほど多い」でもありません。労働安全衛生総合研究所の解説によれば、同じ人数が搬送される暑さ指数(WBGT)には地域差があり、7〜17歳では北海道と東京都で最大4.5℃、65歳以上では北海道と沖縄県で最大3.9℃の差があるとされています。つまり地域によって「倒れる暑さ」自体が違うということです。同解説はまた、65歳以上は18〜64歳よりWBGTが2.6℃低くても同じ人数が搬送される、としています。
このほか、エアコンの普及状況、屋外で働く人の割合、高齢者の単身世帯率、救急搬送の運用の違いなども考えられます。ただし、これらは当サイトが持っているデータでは検証できません。ここから先は推測であり、この記事では結論を出しません。
当サイトの中でも、基準は揃っていない
正直に書きます。当サイトは指標によって、絶対数で順位をつけているページと、人口あたりで順位をつけているページが混在しています。
率で順位をつけているページでは、人口の多い都府県が必ずしも上位に来ません。逆に絶対数で順位をつけているページでは、この記事で見たとおり、上位はおおむね人口順に並びます。同じサイトの中でも、ページによって見ているものが違うということです。
熱中症マップに人口あたりの表示を追加するかどうかは検討中です。この記事の一覧が、当面その代わりになります。
まとめ:ランキングを見たら3つ確認する
- 絶対数か、率か。絶対数なら、それは高い確率で人口ランキングです
- 母数は何か。人口10万人あたりなのか、世帯あたりなのか、面積あたりなのか。母数が変われば順位も変わります
- 順位差はどれくらいか。1位と2位の差がわずかなら、順位の入れ替わりに意味はありません
そして、当サイトのデータを都道府県別に集計するときの注意点はこちらの記事にまとめています。国勢調査のデータには政令指定都市の「市」と「区」が両方入っているため、単純に合計すると人口が過大になります。
関連ページ
データ出典
- 総務省消防庁「熱中症による救急搬送状況」(2025年5〜9月)
- 総務省統計局「国勢調査」2025年(人口)/同2020年(年齢3区分)
- 上野哲「熱中症発症の地域差及び年齢差」労働安全衛生総合研究所メールマガジン 169号(2023年2月3日)
https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2022/169-column-1.html
人口10万人あたりの数値は、当サイトが国勢調査2025年の市区町村人口(1,741件)を都道府県ごとに合計して算出したものです。高齢化率は2020年国勢調査にもとづく人口加重平均です。