「都心回帰」は東京の話ではなかった
人口が都心に戻ってきている——「都心回帰」と呼ばれる現象です。タワーマンションが建ち、若い世帯が都心に住む。話題になるのはたいてい東京です。
政令指定都市の171区と東京23区を同じ土俵に並べて、2020年から2025年の人口増加率で順位をつけてみました。
赤 = 東京23区
| 順位 | 区 | 人口増減 (2020→2025) | 2025年人口 | 区分 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 大阪市浪速区 | +15.8% | 87,409 | 政令指定都市の区 |
| 2 | 名古屋市中区 | +15.6% | 107,614 | 政令指定都市の区 |
| 3 | 大阪市中央区 | +15.1% | 119,350 | 政令指定都市の区 |
| 4 | 大阪市西区 | +9.1% | 115,449 | 政令指定都市の区 |
| 5 | 台東区 | +8.0% | 228,390 | 東京23区 |
| 6 | 中央区 | +7.5% | 181,918 | 東京23区 |
| 7 | 名古屋市東区 | +7.4% | 90,599 | 政令指定都市の区 |
| 8 | 大阪市北区 | +7.3% | 149,620 | 政令指定都市の区 |
| 9 | 千葉市中央区 | +7.0% | 226,620 | 政令指定都市の区 |
| 10 | 大阪市天王寺区 | +6.9% | 87,782 | 政令指定都市の区 |
| 11 | さいたま市大宮区 | +6.4% | 125,310 | 政令指定都市の区 |
| 12 | 大阪市福島区 | +6.2% | 84,223 | 政令指定都市の区 |
上位4つに東京は入っていません。1位は大阪市浪速区の+15.8%、2位が名古屋市中区の+15.6%。東京23区で最も増えたのは台東区の+8.0%で、この混合ランキングでは5位です。
都心回帰は、東京だけで起きているわけではありませんでした。むしろ勢いだけを見れば大阪と名古屋のほうが上です。
本題は「市の中の格差」のほう
ただ、上のランキングは面白い読み方ではありません。もっと差が出るのは、同じ市の中で比べたときです。
政令指定都市20市について、市内で最も人口が増えた区と、最も減った区を並べました。
| 市 | 区数 | 最も増えた区 | 最も減った区 | 幅 |
|---|---|---|---|---|
| 名古屋市 | 16 | 中区+15.6% | 港区-7.6% | 23.2pt |
| 大阪市 | 24 | 浪速区+15.8% | 平野区-4.9% | 20.7pt |
| 浜松市 | 3 | 中央区-2.7% | 天竜区-11.5% | 8.7pt |
| 堺市 | 7 | 堺区+0.9% | 南区-7.6% | 8.6pt |
| 千葉市 | 6 | 中央区+7.0% | 若葉区-1.0% | 8.0pt |
| さいたま市 | 10 | 大宮区+6.4% | 北区-1.2% | 7.6pt |
| 神戸市 | 9 | 中央区+3.1% | 西区-4.4% | 7.6pt |
| 広島市 | 8 | 中区+1.1% | 安佐北区-6.2% | 7.3pt |
| 京都市 | 11 | 下京区+2.1% | 山科区-5.0% | 7.1pt |
| 札幌市 | 10 | 中央区+2.9% | 清田区-3.9% | 6.8pt |
| 横浜市 | 18 | 西区+3.0% | 金沢区-3.4% | 6.4pt |
| 新潟市 | 8 | 中央区-1.6% | 西蒲区-7.6% | 5.9pt |
| 北九州市 | 7 | 小倉北区-1.8% | 門司区-6.9% | 5.2pt |
| 福岡市 | 7 | 東区+5.3% | 西区+0.5% | 4.9pt |
| 仙台市 | 5 | 青葉区+1.5% | 泉区-3.2% | 4.7pt |
| 熊本市 | 5 | 南区+0.7% | 北区-3.4% | 4.1pt |
| 川崎市 | 7 | 多摩区+3.3% | 麻生区-0.4% | 3.8pt |
| 岡山市 | 4 | 北区-1.1% | 東区-4.8% | 3.7pt |
| 静岡市 | 3 | 駿河区-3.7% | 清水区-6.4% | 2.7pt |
| 相模原市 | 3 | 南区-1.1% | 緑区-2.9% | 1.7pt |
上2つが飛び抜けています。名古屋市が23.2ポイント、大阪市が20.7ポイント。3位以下は10ポイント未満なので、この2市だけ別の現象が起きていることになります。
逆に、川崎市(3.8pt)、岡山市(3.7pt)、静岡市(2.7pt)、相模原市(1.7pt)などは幅がほとんどありません。市全体が同じように減っているということです。
つまり、都心回帰が起きている市と、起きていない市があります。「政令指定都市だから中心部に人が集まる」わけではありません。
大阪と名古屋で、地価の反応が違う
ここからが面白いところです。人口の伸び方はよく似ているのに、地価の動きがまったく違います。
| 大阪市の区 | 人口増減 | 地価の中央値 | 地価の変動 |
|---|---|---|---|
| 浪速区 | +15.8% | 738,000円 | +14.75% |
| 中央区 | +15.1% | 2,120,000円 | +14.36% |
| 西区 | +9.1% | 1,600,000円 | +14.37% |
| 北区 | +7.3% | 2,000,000円 | +13.27% |
| 天王寺区 | +6.9% | 753,000円 | +6.96% |
| …平野区 | -4.9% | 187,500円 | +3.78% |
| 名古屋市の区 | 人口増減 | 地価の中央値 | 地価の変動 |
|---|---|---|---|
| 中区 | +15.6% | 1,220,000円 | +5.07% |
| 東区 | +7.4% | 570,500円 | +4.71% |
| 中村区 | +5.2% | 407,000円 | +4.63% |
| 千種区 | +4.6% | 363,500円 | +5.18% |
| 熱田区 | +1.6% | 300,000円 | +6.23% |
| …港区 | -7.6% | 108,000円 | +1.98% |
大阪市の中心部は人口も地価も二桁で伸びています(浪速区 人口+15.8%・地価+14.75%)。
ところが名古屋市中区は人口が+15.6%増えているのに、地価の変動は+5.07%にとどまります。人口の伸びはほぼ同じなのに、地価の反応はおよそ3分の1です。
この差は、国土交通省の発表とも一致しています。
令和8年地価公示では、東京圏と大阪圏はいずれの用途でも上昇幅が拡大した一方、名古屋圏は上昇幅が縮小したと整理されています。当サイトの区単位の集計は、この圏域ごとの傾向をそのまま映していることになります。
大阪市中央区については、国内外の来街者の増加と旺盛な消費で店舗の収益性が高まり、店舗需要が強い状況が続いていると説明されています。
ただし「人が増えたから地価が上がった」とは限りません。大阪の中心部で地価を押し上げているのは主に商業地の需要で、住民が増えたこととは別の力です。順番も因果もこのデータからは決められません。
見落としてはいけないこと:区の大半は減っている
ここまで増えた区の話をしてきましたが、全体を見ると景色が変わります。
| 政令指定都市の171区 | 区数 |
|---|---|
| 人口が増えた | 70区 |
| 人口が減った | 101区 |
| 増減率の中央値 | -1.11% |
減った区のほうが多く、中央値も-1.11%です。都心回帰というのは、政令指定都市全体が伸びている話ではなく、一部の中心区に人が集まり、周辺区から抜けているという話でした。名古屋市の23.2ポイントという幅は、まさにその移動の大きさを示しています。
この記事の数字を読むときの注意
- 政令指定都市の区には、当サイトの所得データがありません。「市町村税課税状況等の調」は市単位の集計のため、区ごとの所得は出せません。この記事で所得に触れていないのはそのためです
- 人口は2025年国勢調査、高齢化率などの年齢構成は2020年です(2025年の年齢別集計は未公表)
- 地価は2026年1月1日時点の公示価格で、実際の取引価格ではありません。区ごとの数値は、その区にある調査地点の中央値と、地点ごとの前年比の平均です
- 東京23区は特別区であり、政令指定都市の行政区とは制度上まったく別のものです。この記事では「大都市の中の区」として増加率だけを比較しています
指標の定義についてはこのサイトの数字を、そのまま信じないでくださいにまとめています。地価の変動率の定義は人が減っているのに、土地が上がるで詳しく説明しました。
まとめ
- 人口増加率の上位4区に東京は入らない。1位は大阪市浪速区の+15.8%
- 市の中の格差は名古屋市23.2pt・大阪市20.7ptが突出。3位以下は10pt未満
- 都心回帰が起きている市と、起きていない市がある
- 大阪は人口も地価も二桁上昇。名古屋は人口が伸びても地価の反応が小さい(国交省の圏域別の傾向と一致)
- ただし政令市171区のうち101区は人口が減っている
関連ページ
データ出典
- 総務省統計局「国勢調査」2025年(人口・5年増減)/同2020年(年齢3区分)
- 国土交通省「地価公示」2026年(令和8年)1月1日時点・国土数値情報 L01
- 国土交通省「令和8年地価公示」報道発表(2026年3月18日公表)
https://www.mlit.go.jp/page/kanbo01_hy_010767.html
圏域別の上昇幅、および大阪市中央区の需要動向に関する記述は、国土交通省の公表資料および報道各社の記事にもとづく整理です。人口移動の要因については当サイトのデータから確認できるものではなく、解釈を含みます。