「都心回帰」は東京の話ではなかった

2026-08-10 公開 / 使用データ: 総務省「国勢調査」2025年・国土交通省「地価公示」2026年(令和8年)

人口が都心に戻ってきている——「都心回帰」と呼ばれる現象です。タワーマンションが建ち、若い世帯が都心に住む。話題になるのはたいてい東京です。

政令指定都市の171区と東京23区を同じ土俵に並べて、2020年から2025年の人口増加率で順位をつけてみました。

赤 = 東京23区

政令指定都市の区と東京23区の人口増加率 上位12
順位人口増減
(2020→2025)
2025年人口区分
1大阪市浪速区+15.8%87,409政令指定都市の区
2名古屋市中区+15.6%107,614政令指定都市の区
3大阪市中央区+15.1%119,350政令指定都市の区
4大阪市西区+9.1%115,449政令指定都市の区
5台東区+8.0%228,390東京23区
6中央区+7.5%181,918東京23区
7名古屋市東区+7.4%90,599政令指定都市の区
8大阪市北区+7.3%149,620政令指定都市の区
9千葉市中央区+7.0%226,620政令指定都市の区
10大阪市天王寺区+6.9%87,782政令指定都市の区
11さいたま市大宮区+6.4%125,310政令指定都市の区
12大阪市福島区+6.2%84,223政令指定都市の区

上位4つに東京は入っていません。1位は大阪市浪速区の+15.8%、2位が名古屋市中区の+15.6%。東京23区で最も増えたのは台東区の+8.0%で、この混合ランキングでは5位です。

都心回帰は、東京だけで起きているわけではありませんでした。むしろ勢いだけを見れば大阪と名古屋のほうが上です。

本題は「市の中の格差」のほう

ただ、上のランキングは面白い読み方ではありません。もっと差が出るのは、同じ市の中で比べたときです。

政令指定都市20市について、市内で最も人口が増えた区と、最も減った区を並べました。

政令指定都市20市 区ごとの人口増減の幅
区数最も増えた区最も減った区
名古屋市16中区+15.6%港区-7.6%23.2pt
大阪市24浪速区+15.8%平野区-4.9%20.7pt
浜松市3中央区-2.7%天竜区-11.5%8.7pt
堺市7堺区+0.9%南区-7.6%8.6pt
千葉市6中央区+7.0%若葉区-1.0%8.0pt
さいたま市10大宮区+6.4%北区-1.2%7.6pt
神戸市9中央区+3.1%西区-4.4%7.6pt
広島市8中区+1.1%安佐北区-6.2%7.3pt
京都市11下京区+2.1%山科区-5.0%7.1pt
札幌市10中央区+2.9%清田区-3.9%6.8pt
横浜市18西区+3.0%金沢区-3.4%6.4pt
新潟市8中央区-1.6%西蒲区-7.6%5.9pt
北九州市7小倉北区-1.8%門司区-6.9%5.2pt
福岡市7東区+5.3%西区+0.5%4.9pt
仙台市5青葉区+1.5%泉区-3.2%4.7pt
熊本市5南区+0.7%北区-3.4%4.1pt
川崎市7多摩区+3.3%麻生区-0.4%3.8pt
岡山市4北区-1.1%東区-4.8%3.7pt
静岡市3駿河区-3.7%清水区-6.4%2.7pt
相模原市3南区-1.1%緑区-2.9%1.7pt

上2つが飛び抜けています。名古屋市が23.2ポイント、大阪市が20.7ポイント。3位以下は10ポイント未満なので、この2市だけ別の現象が起きていることになります。

逆に、川崎市(3.8pt)、岡山市(3.7pt)、静岡市(2.7pt)、相模原市(1.7pt)などは幅がほとんどありません。市全体が同じように減っているということです。

つまり、都心回帰が起きている市と、起きていない市があります。「政令指定都市だから中心部に人が集まる」わけではありません。

大阪と名古屋で、地価の反応が違う

ここからが面白いところです。人口の伸び方はよく似ているのに、地価の動きがまったく違います。

大阪市の区 人口増減と地価
大阪市の区人口増減地価の中央値地価の変動
浪速区+15.8%738,000円+14.75%
中央区+15.1%2,120,000円+14.36%
西区+9.1%1,600,000円+14.37%
北区+7.3%2,000,000円+13.27%
天王寺区+6.9%753,000円+6.96%
平野区-4.9%187,500円+3.78%
名古屋市の区 人口増減と地価
名古屋市の区人口増減地価の中央値地価の変動
中区+15.6%1,220,000円+5.07%
東区+7.4%570,500円+4.71%
中村区+5.2%407,000円+4.63%
千種区+4.6%363,500円+5.18%
熱田区+1.6%300,000円+6.23%
港区-7.6%108,000円+1.98%

大阪市の中心部は人口も地価も二桁で伸びています(浪速区 人口+15.8%・地価+14.75%)。

ところが名古屋市中区は人口が+15.6%増えているのに、地価の変動は+5.07%にとどまります。人口の伸びはほぼ同じなのに、地価の反応はおよそ3分の1です。

この差は、国土交通省の発表とも一致しています。

令和8年地価公示では、東京圏と大阪圏はいずれの用途でも上昇幅が拡大した一方、名古屋圏は上昇幅が縮小したと整理されています。当サイトの区単位の集計は、この圏域ごとの傾向をそのまま映していることになります。

大阪市中央区については、国内外の来街者の増加と旺盛な消費で店舗の収益性が高まり、店舗需要が強い状況が続いていると説明されています。

ただし「人が増えたから地価が上がった」とは限りません。大阪の中心部で地価を押し上げているのは主に商業地の需要で、住民が増えたこととは別の力です。順番も因果もこのデータからは決められません。

見落としてはいけないこと:区の大半は減っている

ここまで増えた区の話をしてきましたが、全体を見ると景色が変わります。

政令指定都市の171区区数
人口が増えた70区
人口が減った101区
増減率の中央値-1.11%

減った区のほうが多く、中央値も-1.11%です。都心回帰というのは、政令指定都市全体が伸びている話ではなく、一部の中心区に人が集まり、周辺区から抜けているという話でした。名古屋市の23.2ポイントという幅は、まさにその移動の大きさを示しています。

この記事の数字を読むときの注意

指標の定義についてはこのサイトの数字を、そのまま信じないでくださいにまとめています。地価の変動率の定義は人が減っているのに、土地が上がるで詳しく説明しました。

まとめ

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データ出典

圏域別の上昇幅、および大阪市中央区の需要動向に関する記述は、国土交通省の公表資料および報道各社の記事にもとづく整理です。人口移動の要因については当サイトのデータから確認できるものではなく、解釈を含みます。