人口増加率の全国上位に並ぶ町で、何が起きているのか
当サイトには人口増加率のランキングがあります。2020年から2025年にかけて人口が増えた市区町村の順です。
その上位を見ると、福島県の町が並びます。
| 順位 | 市区町村 | 人口増減 (2020→2025) | 2025年人口 |
|---|---|---|---|
| 1 | 大熊町 | +81.1% | 1,534 |
| 2 | 富岡町 | +35.8% | 2,890 |
| 3 | 浪江町 | +33.8% | 2,573 |
| 4 | 楢葉町 | +22.5% | 4,543 |
| 5 | 占冠村 | +13.9% | 1,487 |
| 6 | つくば市 | +11.3% | 268,991 |
数字は正しいものです。しかしこの表は、これらの町について何も説明していません。むしろ、読み方を誤らせます。
増加率は「いつと比べたか」で決まります。比較の相手である2020年に、これらの町に何人住んでいたのか。そこを見ないと、この数字は意味をなしません。
国勢調査4回分を並べる
2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故により、周辺の市町村には避難指示が出されました。国勢調査が数えるのはそこに実際に住んでいる人なので、避難していれば避難先で数えられます。
避難指示が出された町村について、2010年(震災前)からの4回分を並べます。順番は増加率ではなく、震災前の人口をどれだけ取り戻しているかが遠い順にしました。
| 町村 | 2010年 (震災前) | 2015年 | 2020年 | 2025年 | 2020→2025 | 2010年比 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 双葉町 | 6,932 | 0 | — | 211 | — | 3.0% |
| 浪江町 | 20,905 | 0 | 1,923 | 2,573 | +33.8% | 12.3% |
| 大熊町 | 11,515 | 0 | 847 | 1,534 | +81.1% | 13.3% |
| 富岡町 | 16,001 | 0 | 2,128 | 2,890 | +35.8% | 18.1% |
| 飯舘村 | 6,209 | 41 | 1,318 | 1,373 | +4.2% | 22.1% |
| 葛尾村 | 1,531 | 18 | 420 | 419 | -0.2% | 27.4% |
| 楢葉町 | 7,700 | 975 | 3,710 | 4,543 | +22.5% | 59.0% |
| 川内村 | 2,820 | 2,021 | 2,044 | 1,705 | -16.6% | 60.5% |
| 広野町 | 5,418 | 4,319 | 5,412 | 4,783 | -11.6% | 88.3% |
2015年の国勢調査で、人口が0人と記録された町村が4つあります。
浪江町、富岡町、大熊町、双葉町。いずれも町の全域に避難指示が出ていた時期にあたります。
双葉町の2020年を「—」としているのは、当サイトが数値を持っていないからではありません。e-Stat の元データに「-」(該当数字なし)と記録されているためです。2015年のように明示的な0ではないので、ここでは0とは書かず、元データの表記のまま空欄にしています。
この列を見たうえで、もう一度いちばん右の「2010年比」を見てください。
「増えた」のは事実で、「戻った」とは別のことです。増加率のランキングは前者しか映しません。
土地の値段は動いていない
通常、人口が5年で数割増えれば土地の値段は上がります。別の記事で書いたとおり、人口が増えている市区町村で地価が下がっている例は、全国でほとんどありません。
これらの町では、そうなっていません。
| 町村 | 人口増減 (2020→2025) | 地価の中央値 | 前年比 | 調査地点 |
|---|---|---|---|---|
| 浪江町 | +33.8% | 14,800円 | +0.47% | 3 |
| 大熊町 | +81.1% | 12,575円 | +0.00% | 2 |
| 富岡町 | +35.8% | 21,700円 | -0.47% | 3 |
| 楢葉町 | +22.5% | 14,300円 | -1.70% | 2 |
| 広野町 | -11.6% | 19,800円 | -1.05% | 2 |
人口が増えている町で、地価がほぼ動いていません。市場としての需要が戻っているわけではないということを示しています。
なお双葉町、飯舘村、葛尾村、川内村には地価公示の調査地点がなく、数値がありません。調査地点そのものが置かれていないという事実も、状況を映しています。
何が起きたのか
福島県の説明によれば、避難指示が続いていた帰還困難区域の中に「特定復興再生拠点区域」が設けられ、除染やインフラ整備を経て順次、避難指示が解除されてきました。対象は富岡町・大熊町・双葉町・浪江町・葛尾村・飯舘村の6町村です。
- 双葉町 … 2022年8月30日、JR常磐線・双葉駅を中心とする区域
- 浪江町 … 2023年3月31日、室原・末森・津島の一部
- 富岡町 … 2023年4月1日、夜ノ森・大菅の一部(同年11月30日に追加解除)
- 飯舘村 … 2023年5月1日、長泥地区
2020年から2025年にかけての人口増加は、この時期と重なります。数字が動いた理由は、人が集まる魅力が生まれたからではなく、住むことが許されるようになったからです。
ランキングという形式の限界
当サイトの人口増加率ランキングは、計算としては正しく動いています。それでも、この4町については指標が壊れています。
- 比率は、母数が小さいと壊れます。0人に近いところから増えれば、増加率はいくらでも大きくなります
- 比較の基準年が、その町にとって特別な年であれば、比率は意味を失います。2020年はこれらの町にとって「ほとんど誰も住めなかった年」でした
- ランキングは順位しか示しません。2010年比という1列を足すだけで、見えるものが変わります
当サイトはランキングページを削除しません。数字自体は公的統計にもとづく正しいものだからです。ただしランキングだけを見て何かを判断しないでくださいとは、はっきり書いておきます。
この記事の数字について
- すべて総務省統計局の国勢調査です。2010年・2015年は e-Stat のAPIから取得し、2020年・2025年は当サイトの掲載値と同じものです
- 国勢調査の人口は、調査時点でそこに住んでいる人の数です。住民登録の人数とは異なります。避難している方は避難先で数えられています
- 0人という記録は、その時点で常住人口が確認されなかったことを意味します。なお2020年の双葉町は元データで「-」(該当数字なし)と記録されており、明示的な0とは表記が異なるため、本記事では空欄のままにしています
- 公示地価は毎年1月1日時点の鑑定評価で、実際の取引価格ではありません。調査地点が2〜3地点の町村では、地点の位置によって数値が動きます
- 避難指示の解除区域・時期は町村ごと、地区ごとに異なります。ここに挙げたのは特定復興再生拠点区域に関するもので、町全体の解除を意味しません
指標の定義についてはこのサイトの数字を、そのまま信じないでくださいにまとめています。
関連ページ
データ出典
- 総務省統計局「国勢調査」2010年・2015年・2020年・2025年(e-Stat)
- 国土交通省「地価公示」2026年(令和8年)1月1日時点・国土数値情報 L01
- 福島県「特定復興再生拠点区域・特定帰還居住区域とは」
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kyoten-kuiki.html - 経済産業省「これまでの避難指示等に関するお知らせ」
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hinan_history.html
避難指示の解除時期は福島県の公表資料にもとづきます。区域の詳細は各町村および県の公式情報をご確認ください。当サイトは公的統計を整理して掲載するもので、復興政策の評価を行うものではありません。