「所得の割に土地が安い街」を計算したら、指標が壊れていた
移住先を数字で探すなら、こう考えたくなります。収入に対して土地が安い街はどこか。
当サイトには所得のデータも地価のデータもあるので、割り算するだけです。一人当たりの課税対象所得を、その市区町村の地価の中央値(1m²あたり)で割る。「年収1年ぶんで何m²の土地が買えるか」という指標になります。
人口3万人以上の708市区町村で計算しました。
| 順位 | 市区町村 | 年収で 買えるm² | 一人当たり 所得 | 地価 中央値 | 人口 | 人口増減 | 高齢化率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 茨城県鉾田市 | 317 | 295.7万円 | 9,340円 | 43,386 | -5.6% | 34.1% |
| 2 | 福島県白河市 | 306 | 318.1万円 | 10,400円 | 55,388 | -6.9% | 29.7% |
| 3 | 秋田県潟上市 | 305 | 264.4万円 | 8,680円 | 30,257 | -4.6% | 35.5% |
| 4 | 北海道稚内市 | 297 | 344.7万円 | 11,600円 | 30,068 | -10.4% | 32.9% |
| 5 | 茨城県稲敷市 | 272 | 287.2万円 | 10,575円 | 35,390 | -9.3% | 36.9% |
| 6 | 北海道滝川市 | 261 | 294.9万円 | 11,300円 | 35,845 | -9.2% | 35.4% |
| 7 | 鹿児島県指宿市 | 253 | 261.4万円 | 10,350円 | 35,839 | -8.1% | 39.6% |
| 8 | 北海道登別市 | 248 | 288.1万円 | 11,600円 | 41,991 | -9.5% | 37.4% |
| 9 | 福岡県嘉麻市 | 236 | 255.4万円 | 10,800円 | 31,909 | -10.0% | 40.5% |
| 10 | 宮城県登米市 | 231 | 272.5万円 | 11,800円 | 69,264 | -8.9% | 35.5% |
| 11 | 山梨県北杜市 | 230 | 312.7万円 | 13,600円 | 41,826 | -5.1% | 40.0% |
| 12 | 北海道岩見沢市 | 217 | 293.8万円 | 13,550円 | 73,004 | -7.9% | 36.5% |
1位は茨城県鉾田市の317m²。年収1年ぶんで、テニスコート1面を超える広さの土地が買える計算になります。
反対側も見ておきます。
| 市区町村 | 年収で買えるm² | 一人当たり所得 | 地価中央値 | 人口増減 |
|---|---|---|---|---|
| 東京都港区 | 3.3 | 1396.8万円 | 4,270,000円 | +4.7% |
| 東京都新宿区 | 3.2 | 620.5万円 | 1,930,000円 | +3.5% |
| 東京都台東区 | 3.0 | 482.2万円 | 1,600,000円 | +8.0% |
| 東京都千代田区 | 2.6 | 1121.3万円 | 4,330,000円 | -0.7% |
| 東京都中央区 | 2.1 | 780.8万円 | 3,710,000円 | +7.5% |
最下位は東京都中央区の2.1m²。畳にして1.3畳ぶんです。1位とは150倍の開きがあります。
ここまでは、指標として機能しているように見えます。
上位50件を確かめて、手が止まった
上位に並んだ市区町村の人口増減の列を見てください。全部マイナスです。
範囲を広げて確認しました。上位50件のうち、人口が減っているのは50件。50件中50件です。例外がありませんでした。
| 人口増減の中央値 (2020→2025) | |
|---|---|
| 「年収で買えるm²」上位50件 | -8.02% |
| 人口3万人以上の708市区町村 全体 | -3.30% |
全体の中央値が-3.30%なのに対し、上位50件は-8.02%。全国平均のおよそ2.4倍の速さで人が減っている場所が並んでいたことになります。
相関を取ると、はっきりしました。
- 年収で買えるm² × 人口増減率 … r = -0.580
- 年収で買えるm² × 高齢化率 … r = +0.586
この指標は「安さ」ではなく、「需要の無さ」を測っていました。
土地の値段は、そこに住みたい人がどれだけいるかで決まります。だから「所得に対して土地が安い」は、多くの場合「所得の割に、住みたい人が少ない」と同じことを言っています。安さと過疎は切り離せません。
作った本人としては、失敗です。「コスパのいい移住先ランキング」のつもりで作った指標が、実質的に「人口減少率ランキング」になっていました。
条件を足して、作り直す
指標そのものが無意味だったわけではありません。足りなかったのは「人が減っていないこと」という条件です。
人口の減少が5年で2%以内(=ほぼ維持できている)の市区町村に絞ります。708件のうち260件が該当しました。
| 順位 | 市区町村 | 年収で 買えるm² | 一人当たり 所得 | 地価 中央値 | 人口 | 人口増減 | 高齢化率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 宮崎県都城市 | 151 | 282.9万円 | 18,700円 | 160,340 | -0.2% | 31.7% |
| 2 | 栃木県さくら市 | 143 | 323.6万円 | 22,600円 | 44,192 | -0.7% | 26.4% |
| 3 | 長野県小諸市 | 133 | 342.2万円 | 25,700円 | 40,217 | -1.9% | 33.8% |
| 4 | 茨城県坂東市 | 133 | 293.6万円 | 22,100円 | 51,344 | -1.8% | 30.3% |
| 5 | 茨城県つくばみらい市 | 118 | 363.0万円 | 30,800円 | 52,070 | +4.4% | 27.7% |
| 6 | 三重県いなべ市 | 117 | 325.5万円 | 27,800円 | 44,095 | -2.0% | 27.4% |
| 7 | 山梨県南アルプス市 | 115 | 312.5万円 | 27,200円 | 69,250 | -0.3% | 27.9% |
| 8 | 石川県能美市 | 111 | 322.3万円 | 29,150円 | 48,473 | -0.1% | 26.2% |
| 9 | 三重県亀山市 | 109 | 325.8万円 | 29,800円 | 49,168 | -1.3% | 27.0% |
| 10 | 茨城県東海村 | 107 | 365.9万円 | 34,250円 | 37,806 | -0.2% | 25.3% |
| 11 | 佐賀県小城市 | 103 | 287.1万円 | 27,750円 | 43,126 | -1.9% | 29.0% |
| 12 | 茨城県阿見町 | 103 | 324.4万円 | 31,600円 | 49,689 | +2.3% | 27.8% |
さらに厳しくして、人口が減っていない(横ばい以上の)市区町村だけに絞ります。該当は118件です。
| 順位 | 市区町村 | 年収で 買えるm² | 一人当たり 所得 | 地価 中央値 | 人口 | 人口増減 | 高齢化率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 茨城県つくばみらい市 | 118 | 363.0万円 | 30,800円 | 52,070 | +4.4% | 27.7% |
| 2 | 茨城県阿見町 | 103 | 324.4万円 | 31,600円 | 49,689 | +2.3% | 27.8% |
| 3 | 石川県かほく市 | 94 | 296.3万円 | 31,500円 | 36,009 | +3.2% | 29.7% |
| 4 | 千葉県袖ケ浦市 | 87 | 350.5万円 | 40,450円 | 65,125 | +1.9% | 27.0% |
| 5 | 福岡県筑前町 | 85 | 286.6万円 | 33,700円 | 30,842 | +4.2% | 31.2% |
| 6 | 千葉県木更津市 | 84 | 358.6万円 | 42,550円 | 137,149 | +0.7% | 27.9% |
| 7 | 福岡県苅田町 | 82 | 315.0万円 | 38,200円 | 37,975 | +0.8% | 24.6% |
| 8 | 千葉県印西市 | 82 | 399.2万円 | 48,900円 | 110,400 | +7.6% | 23.2% |
| 9 | 鹿児島県姶良市 | 81 | 281.0万円 | 34,700円 | 76,919 | +0.7% | 31.5% |
| 10 | 山梨県甲斐市 | 81 | 338.5万円 | 42,000円 | 75,545 | +0.3% | 26.3% |
条件を足すと、いくら「損」をするか
| 条件 | 1位 | 年収で買えるm² | 無条件1位に対して |
|---|---|---|---|
| 条件なし | 茨城県鉾田市(-5.6%) | 317m² | 100% |
| 人口減少2%以内 | 宮崎県都城市(-0.2%) | 151m² | 48% |
| 人口が減っていない | 茨城県つくばみらい市(+4.4%) | 118m² | 37% |
「人が減っていないこと」を条件に加えると、買える面積は63%落ちます。これが、街に人が残っていることの値段です。
それでも118m²は、708市区町村の中央値66m²の1.8倍にあたります。「人が減っておらず、それでいて割安」は、数として少ないだけで、存在はします。
この記事の数字を読むときの注意
- 「一人当たり課税対象所得」は世帯年収ではありません。納税義務者1人あたりの、2022年中の所得です。世帯で2人働いていれば、世帯の収入はこの数字より大きくなります
- 公示地価は実際の取引価格ではありません。毎年1月1日時点の鑑定評価で、市区町村の値はその中にある調査地点の中央値です。住宅地・商業地・工業地が混ざっているため、「住宅を買う値段」そのものではありません
- 年次が揃っていません。所得は2022年、地価は2026年1月1日、人口は2025年です
- 人口3万人未満の市区町村は、地価の調査地点が少なく比率が大きく振れるため除きました
- この指標は土地の広さしか見ていません。建物の値段、通勤時間、医療や教育、仕事があるかどうかは一切入っていません
指標の定義についてはこのサイトの数字を、そのまま信じないでくださいに、地価の変動率の読み方は人が減っているのに、土地が上がるにまとめています。
まとめ
- 「年収で買えるm²」の上位50件は、50件すべてが人口減少。中央値-8.02%(全体-3.30%)
- 相関は 人口増減と r = -0.580、高齢化率と r = +0.586
- この指標が測っていたのは「安さ」ではなく「需要の無さ」だった
- 「人が減っていない」条件を足すと、買える面積は63%落ちる。それが人が残っていることの値段
指標は、作れば測れるわけではありません。出てきたランキングが「何の順位になっているか」を、別のデータで確かめる必要があります。今回は人口増減がその役目を果たしました。
関連ページ
データ出典
- 総務省「市町村税課税状況等の調」2023年度(e-Stat「統計でみる市区町村のすがた2025」より集計)
- 国土交通省「地価公示」2026年(令和8年)1月1日時点・国土数値情報 L01
- 総務省統計局「国勢調査」2025年(人口・5年増減)/同2020年(年齢3区分)
「年収で買えるm²」は、当サイトが一人当たり課税対象所得を地価の中央値で割って算出した指標です。公的な指標ではありません。相関係数はピアソンの積率相関係数で、人口3万人以上の708市区町村を対象としています。1畳は1.62m²として換算しました。