事故が多い場所と、人が死ぬ場所は違う
「事故が多い場所は危ない」。当然のように聞こえます。当サイトの事故マップも、地図上に事故の点を打って多いところを目立たせる作りです。
ですが、事故が多いことと、そこで人が死ぬことは、別の話でした。
警察庁のオープンデータ290,895件のうち、死亡事故は2,598件。全体の0.89%、1万件あたり89.3件です。この「1万件あたりの死亡件数」を管轄ごとに出して、件数の順位と並べてみます。
件数トップ10
| 順位 | 管轄 | 事故件数 | うち死亡 | 1万件あたり 死亡件数 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 東京 | 30,103 | 145 | 48.2 |
| 2 | 大阪 | 24,780 | 126 | 50.8 |
| 3 | 愛知 | 24,506 | 139 | 56.7 |
| 4 | 神奈川 | 20,750 | 109 | 52.5 |
| 5 | 福岡 | 18,473 | 90 | 48.7 |
| 6 | 静岡 | 17,441 | 86 | 49.3 |
| 7 | 埼玉 | 15,831 | 109 | 68.9 |
| 8 | 兵庫 | 15,551 | 104 | 66.9 |
| 9 | 千葉 | 12,587 | 129 | 102.5 |
| 10 | 群馬 | 9,059 | 46 | 50.8 |
死亡率トップ10
同じデータを、1万件あたりの死亡件数で並べ直します(母数が振れないよう、事故が2,000件以上ある管轄に限りました)。
| 順位 | 管轄 | 1万件あたり 死亡件数 | 事故件数 | うち死亡 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 山口 | 237.0 | 2,152 | 51 |
| 2 | 岐阜 | 236.3 | 2,835 | 67 |
| 3 | 愛媛 | 236.3 | 2,074 | 49 |
| 4 | 新潟 | 202.2 | 2,671 | 54 |
| 5 | 鹿児島 | 181.1 | 2,871 | 52 |
| 6 | 熊本 | 180.0 | 2,945 | 53 |
| 7 | 青森 | 171.2 | 2,278 | 39 |
| 8 | 福島 | 165.3 | 3,086 | 51 |
| 9 | 三重 | 165.2 | 2,724 | 45 |
| 10 | 茨城 | 151.5 | 6,005 | 91 |
2つの表に、重なる管轄が1つもありません。
事故件数が全国で最も多い東京(30,103件)は、1万件あたりの死亡件数では48.2件。全管轄で最も低い51位です。最も高い山口(237.0件)とは4.9倍の開きがあります。
事故が2,000件以上ある37管轄で相関を取ると、事故件数と死亡率の相関係数は r = -0.689。はっきりした負の相関です。事故が多い場所ほど、事故あたりで人が死ににくい。
なぜ逆になるのか — 事故の中身が違う
事故を類型別に分けると、理由がはっきり出ます。
| 事故類型 | 件数 | 件数の割合 | 死亡 | 死亡の割合 | 1万件あたり 死亡件数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 車両相互 | 240,107 | 82.5% | 909 | 35.0% | 37.9 |
| 人対車両 | 38,643 | 13.3% | 919 | 35.4% | 237.8 |
| 車両単独 | 12,090 | 4.2% | 734 | 28.3% | 607.1 |
| 列車 | 55 | 0.0% | 36 | 1.4% | 6545.5 |
事故の83%は「車両相互」——クルマ同士の追突や出合い頭です。ところがこの類型の1万件あたり死亡件数は37.9件しかありません。全国平均の89.3件を大きく下回ります。
対照的なのが「車両単独」です。件数では全体の4.2%にすぎないのに、死亡事故の28.3%を占めています。1万件あたり607.1件で、車両相互の16倍です。
「人対車両」も237.8件と高く、件数13.3%に対して死亡の35.4%を占めます。
都市部で数えられている事故の大半は、渋滞の中での接触や追突です。数は膨大でも、速度が出ていないぶん死には至りにくい。一方で、単独事故や歩行者との事故は件数こそ少ないものの、起きたときに人が死ぬ確率が桁違いに高い。件数ランキングは「事故の起きやすさ」を測っていて、「死にやすさ」は測っていません。
時間帯でも大きく変わる
| 時間帯 | 件数 | 死亡 | 1万件あたり死亡件数 |
|---|---|---|---|
| 夜・朝 | 4,024 | 137 | 340.5 |
| 夜 | 50,357 | 888 | 176.3 |
| 昼・朝 | 9,154 | 89 | 97.2 |
| 夜・夕 | 22,959 | 204 | 88.9 |
| 昼 | 185,341 | 1179 | 63.6 |
| 昼・夕 | 19,060 | 101 | 53.0 |
昼の63.6件に対して、夜は176.3件。およそ2.8倍です。最も高いのは夜・朝の340.5件でした。
外れた仮説と、比べられなかったこと
ここまでの話から、「地方は単独事故の割合が高いから死亡率が高いのだろう」と考えました。管轄ごとに単独事故の割合を出して、死亡率との相関を取ってみました。
相関はほぼゼロでした(r = -0.054)。
さらに調べると、比較そのものに問題があることが分かりました。車両単独の割合は東京が19.75%、大阪が0.82%と、桁が違います。しかも東京の単独事故の1万件あたり死亡件数は48.8件で、全国の単独事故(607.1件)とはまったく別物の水準です。
これは管轄によって計上のしかたが違う可能性を示しています。したがってこの記事では、管轄どうしで事故類型を比較することはしません。事故類型の分析は全国の集計にとどめています。
「地方の道は速度が出るから死亡率が高い」という説明は、直感的には正しそうです。しかし当サイトのデータでは裏づけられませんでした。裏づけるには走行速度や交通量のデータが必要で、それは警察庁のこのデータには含まれていません。
この記事の数字を読むときの注意
- 母数が小さい管轄は率が振れます。事故が2,000件未満の管轄には、1万件あたり319.6件(北海道(北見方面)・事故219件・死亡7件)といった数値が出ますが、死亡が数件動くだけで順位が変わります。この記事の死亡率ランキングを2,000件以上に限ったのはそのためです
- 🔴 「2024年版」のデータには、2023年以前に発生した事故が8,519件(2.9%)含まれています。年をまたいで確定した分が繰り越されるためとみられ、実際に2023年発生分は12月に集中しています。当サイトが「2024年版」として掲載しているのは、警察庁がその年のデータセットとして公開した範囲そのままです
- 事故マップの管轄コードは警察庁の体系で、他のアプリで使っているJISの都道府県コードとは別物です。北海道は5つの方面本部に分かれています
- これは警察が把握した事故の統計です。届出のなかった事故は含まれません
指標の定義についてはこのサイトの数字を、そのまま信じないでくださいに、絶対数ランキングの読み方については「全国1位」の正体にまとめています。
まとめ
- 事故件数トップ10と死亡率トップ10は1つも重ならない
- 件数1位の東京は死亡率51位(最下位)。事故件数と死亡率の相関は r = -0.689
- 事故の83%を占める車両相互は37.9件と最も死ににくい。車両単独は件数4.2%で死亡の28.3%
- 夜は昼の約2.8倍
- 件数ランキングは「事故の起きやすさ」であって「死にやすさ」ではない
関連ページ
データ出典
- 警察庁「交通事故統計情報のオープンデータ」2024年(令和6年)本票・高速票
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/opendata/index_opendata.html
1万件あたり死亡件数は、当サイトが事故件数と死亡事故件数から算出した値です。相関係数はピアソンの積率相関係数で、事故が2,000件以上ある37管轄を対象としています。事故の中身に関する解釈は当サイトによるもので、警察庁の見解ではありません。